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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

四

この家の長者の娘が盛装して給仕に侍っているのが目についた。北条、千葉、その他の群臣が、居ながれて皆、杯を手にしていた。

「お食事中ではありますが、ちょっとお耳まで」

実平は、席のすそへ坐って、こう取次いだ。彼は、自分で取次ぎに出た事柄に、自分でもまだ慥と信が持てない容子であった。

四

「なに九郎が。……あの奥州の九郎が訪ねて見えたとか」

頼朝は、口のうちで呟くように云いながら、茫然と、その眼は、二十年前の思い出をあわただしく心の奥で索っていた。

「……はい」

実平は、遠くから、その気色を窺っていた。並居る人々も、思いがけない事をふと耳にして、一様に、頼朝の面を見まもっていた。

「……オオ」

頼朝は、声と共に、ハタと膝へ手を落して、

「さては、正しく血縁の異母弟、九郎義経にちがいあるまい。――なつかしや、すぐ通せ。すぐこれへ」

と、声を弾ませて云った。

土肥実平は、はっと起つと、顔いろを変えて退がった。――さては、やはり骨肉の弟君であったのかと、うろたえと、緊張とに、跫音も大きく、駈けて行った。

「一同はしばらくここを退がっておれ。――そうだ、別間へ宴を移して、寛ぐがよい」