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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
五
鎌倉には金がない。
坂東武者がいくら寄ったところで、武力だけで大兵を養う経済力といったら甚だ心細いものでしかない。
由来、東国そのものに、財力はなかった。長年にわたる平家文化の絢爛は、それだけ地方の疲弊と枯渇を意味している。
「鎌倉殿も、金をもって立ったのではないからなあ。武者たちの弓にしろ矢にしろ、手作りが多いのを見てもわかる。長刀、太刀でも目につくほどな物を持っているのは大将たちぐらいなもの。……さすがに馬だけは、逸物があるが」
とは、誰もいうことで、すこし商才のある者なら、鎌倉の創業景気が経済的には、いかに不安心なものかは、すぐ考えさせられるに違いなかった。
商人たちの見解もそうだし、平家でも勿論、ここへの輸送路には手配をして禁絶に努めている。
当初、経済方面の奉行にあたった北条時政も、これにはひどく困惑しているとか聞いたが、吉次は、自分の手にうごかし得るだけの物資を、去年以来、すでに、三、四度も鎌倉へ廻送しているばかりか、まだ一度も、
「価を賜わりたい」
とも、何が欲しいとも、申し出ていなかった。奉行の北条時政から召されて用のある時でも、彼自身はまだ出向いたこともない。