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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
「おたがいだ。ところで、佐々木殿、先にここを曳かせて通ったのは、生※(「口+妾」、第4水準2-4-1)と見たが、お上から拝領なされたのか」
「あ。あれか」
高綱は、にっと景季のひとみを見つめながら、自分の頬のあたりを、右の掌で一つ打った。
「見つかっては是非もない。実を吐くが、他言して給わるな」
「戴いたのではないのか」
「どうして、あれを下さろうぞ。――出陣の真際、恥ずかしいが、良い馬に事を欠き、思案にくれたあげく、お厩の御料一匹おねだり申そうかと考えたが、もし、下された馬がさほどの逸物でなかったら、合戦に臨まぬうちから、我のみ負れをとる。……ままよ、後でご勘当うけたら、功名と差引。討死いたしたら、香華の代りと、おあきらめ下さろう。……そう考えてな、盗み出して来たのだ。暗夜、ひそかにお厩の内から」
「えっ、盗んで来たと」
「所詮、われわれ風情では、正直では名馬は得られぬからな。あははは」
「盗みおったとは。――いや、押太さにも、上には上のあるものよ、アハハハ」
高綱は笑う。
景季も笑ってしまう。
手をたたいて、二人は笑った。
もうそこには何のわだかまりもない。