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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

ついには、ことばも激越になってくると、範頼は、

「九郎殿。ではお許は、院のお沙汰も待つに及ばぬ。鎌倉殿のご意向にもかかわるなと云うのか。この範頼に、強いて、不逞な行動をとれとすすめるのか」

と、云った。

義経は、口をつぐんだ。

そして悄然と、二条から戻って来る頃、夜は白みかけていた。

四

この日の朝。

義仲以下の首を、六条の河原に梟けるため、検非違使等の役人は、まだ暗いうちから獄門の場所へ来て、指図をしていた。

その人声を振向きながら、義経の馬は、七条松並木のほうへ曲った。すると、河原の下から、

「九郎様。九郎様っ」

と、にわかに声をあげて、追い慕って来た男がある。

義経はふり向いて、

「やっ、吉次ではないか」

と、眼をみはった。

吉次は、馬前に両手をついて、

「お出ましと窺い知って、昨夜からお帰りの途中を待っていました。何かと、その後の事どもお耳に入れとう存じます。ご陣所まで、お供仰せつけ下さいませ」

前後には、人がいる。義経にも憚られた。

「むむ。参るがよい」

そのまま吉次をつれて、駒は急いだ。――と云っても、七条の陣所はもうそこに見えていた。

人を払って、義経は、戻るとすぐ一室へ吉次を通した。