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みなもとよりとも
源頼朝
吉川 英治
「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页
二
それは、中央に栄華して、歌をよみ、恋に暮し、政の大計は何もなく、ただ地方の百姓や家族へ、米や絹の租税の催促ばかり知っていた藤原氏自身が、ついに醸したものだった。
清盛は、今年、
「たとえ、自分が権を握っても、藤原氏のような馬鹿なまねは、おれの子孫にはさせんぞ」
と、独り年頭に自粛自戒して、ふかく省みた事であった。
彼は、明けて四十三歳の、男ざかりであった。
二
その清盛はきょうも、朝廷の出仕からたった今、退がって来た。
しきつめた小れ石のうえを、牛車の厚い轍が、邸内の奥ふかくまで、重々と軋み巡って来るまに、
「おさがりです」
「ご帰館」
と、館の侍部屋といわず、奥まった女たちのいる局といわず、色めき立って、泉殿にせせらぐ水音までが、改まって来るかのようであった。
「やあ」
大きな声をして、窮屈さを放つように、清盛は、出迎えの一統にそういうのが癖なのである。
車の簾を上げると共に、
「大儀」
ひょッこり降りる。
小柄な体なのである。そのくせ武張ってみせるのだ。朝に上っても、柔軟な公卿を、その小柄で下に見る風があるので、見られる者は何となく、
(威張りおる)
と、反感を挑まれる。