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みなもとよりとも

源頼朝

吉川 英治

「朝日新聞」1940(昭和15)年1月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 306,118 字 · 613 页

青空文庫

馬ねむり

一

燦として、二人の具足や太刀金具が光を放つ。それにつけて満身の雪も滴々としずくして落ちた。いや二人の涙はそれにまさるものがあった。

「…………」

頭殿にはこんどの合戦に伴った若武者の、男々しい子たちのほかに、まだ母の膝も離れぬ幼いのが、よその館に三人もいた。

その母なる人はもと九条院の雑仕女であった常磐御前で、深窓の女性ではないから、平常でも世間にはつつましく、一族の晴れ事などにも余り姿を見せず、葉がくれの寒椿の花の覗けば紅きがように陰住居していたが、すでに左馬頭義朝とのあいだには、ことし七ツになる今若、五歳の乙若、そしてまだ乳恋うさかりの牛若と、男の子ばかり三人の和子を生していたのであった。

馬ねむり

一

長居は心がゆるさない。焚く榾の火もあまり過ぎては、暖に馴れて、かえって後が辛いし、人目を招く惧れもある。

ふたりはやがてまた、獣小屋を捨てて騎を急がせていた。そして以前の岐れ路まで来ると、

「では、金王」

「兵衛どの」

改めて、無量の思いを、呼び交わしつつ、

「行く先のご無事を祈り申しておるぞ。常磐さま始め、おちいさい公達たちのご先途、くれぐれも頼み参らすぞ」