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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
……いかがでござりましょうな、村の者一同のおねがいでござりますが」と、こもごもに頼むのだった。親鸞は、すぐ承知して、
「参りましょう」と答えた。
あまりにかんたんに承知してくれたので、使いにきた庄屋たちは、かえって意外な顔をしたが、親鸞は、それは当然自分のするおつとめであって、頼まれるまでもなく、そういう気持を抱いている人々のいる村なら、どんな都合をくりあわせてもすすんで行くというので、庄屋たちは、
「なるほど、うわさに違わぬ上人様じゃ」と、よろこんで日やその他の打合せをして、いそいそ帰った。
と、須弥壇のある一室には、いつものように、上人を囲んで夜語りを聞こうとする百姓たちが、もう八、九名つめかけていたが、柿岡の者が帰ってゆくと、すぐ親鸞を囲んで、
「お上人様、なぜ柿岡へゆくことを、承知してやったのでございますか」
「なんとかいって、後からでも、お断りなされたほうがようございます」と、不安に満ちた眼をしていった。
親鸞は、顔を振って、
「なんの、ああいう頼みでは、千里の旅でも、断れぬ。――あなた方はまた、なんでわしを止めなさるのか」
「でも……」と、口籠っていたが、顔を見あわせた後、一人が膝をすすめて言った。