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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
弁円は、踏みしめている踵の裏から、だんだんに力の抜けてゆく自分をどうしようもなかった。
彼も、仏者である、聖護院の御内に僧籍のある仏子である。菩薩の顔と、邪人の顔と、見わけのつかない人間ではない。――なんで親鸞は前からこんなよい顔を備えていたろうか。このほほ笑みが一体人間のものだろうか。彼の殺意は、だんだんに冷えて行った。
「……ああ……」思わずうめいたものである。――京都の巷で見たころの親鸞の顔には、もっと険しいものがあった、勝ち気があった、世に負けまいとする鋭い眼があった、物いえば烈々と人を圧しる唇あり、起てば、群小を睥睨する威風があった。
けれど今のすがたには、そんな烈しい強いものは微塵もない。これは、弁円にして初めて思い出される記憶であった。――今の親鸞の和やかな顔は、十八公麿と呼ばれていたころの幼顔にそっくりである。四十を超えてからの親鸞は、いつの間にか幼少の顔のほうへ近くなっていたものと見える。
八
「――ああっ、おれは過っていた」ぐわらりと、大地に地ひびきさせて、弁円は坐っていた。両手で顔を蔽うてさけんだ。
「……不覚不覚、一生の不覚だった。