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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

七

「ここばかりじゃねえ、おれの念仏嫌いを承知のくせに、亭主のいやがることを、うぬは、故意にするのだっ。さっ、きょうはもう勘弁できねえからそう思え」腹巻から鑿を抜いて、右の手にひらめかせた。

「あれっ、助けてっ――」お吉は逃げ廻った。人々も、うろたえて、

「あぶないっ、平次さん、そ、そんな乱暴なことをしないでも」

「何をいやがる」平次郎は、眼をつりあげて、自分を遮る者を睨めまわし、

「おれの女房を、おれが折檻するのだ、自体、てめえ達が、ばかなお手本を出すからよくねえ」そういって、

「やいっ」とまた、お吉の方へ、怖ろしい形相を向け直してわめくのだった。

「あれほど、いっても懲らしても、また家を留守にしやがって、こんな所へ来てよくも粋狂な真似をしてやがるな。……ははア分った。この普請場にゃ、和介の野郎が仕事にきているので、てめえは、信心にことよせて、和介の顔を見に来やがるのだろう。……いや、そうだ、そうに違えねえ」

「ま……なにをお前さん」

「いいや、てめえが、和介の奴に、妙な素振りを見せていることは、おらあとうに知っているんだ。――さもなくて、べら棒め、その日暮しの貧乏人が、駄賃も出ねえタダ働きをなんでする」