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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

範綱の足もとに両手をついたまま、しばらく、男泣きに泣いているのであった。

わけをただすと、曲者は、十八公麿のやさしい童心に対して、醜悪な自己の姿がたまらないほど恥かしくなったのだという。奉公のためとはいえ、呪詛と虚偽の仮面をかぶって、牢獄につながれている自分の浅ましい姿も恥かしいし、また、家にのこしてある妻子に対する思慕にも耐えられなくなったというのである。

「もう何をかくしましょう、わたくしは小松殿の御内人です。成田兵衛の郎党で庄司七郎という者です。先年はまだ和子様が日野の里においでのころ、無礼を働いたこともあるので、うすうす、和子様のお顔は存じ上げておりました」

「ではやはり、蔵人殿のご推察どおり、六波羅方の諜し者じゃな」

「いかにも」と七郎は、きっぱりいった。

「新院大納言が、相国に不満をいだいて、何やら密謀のあるらしい気配、夙く、それがしの主人成田兵衛が感づいて、あの衆の後を尾行よというおいいつけなのです。すでに、小松殿も、それをお気づきある以上は、もはや、事を挙げても、成就せぬことは、火をみるよりも、瞭かです。決して、お館には、さような暴挙にご加担なされぬように……。