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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

それは、家来たちの席であると注意されて、急いで、城主のほうへまた、お辞儀をし直した。

梵鐘が鳴り出した。人々は、座を立つ。供養の式は終ったのである。

だが、群衆はまだ去らないで騒いでいる。御堂へ向って前栽の両側に、これから、城主と親鸞とが手ずから鍬を持って、双つの樹を植える式があるというので――。

その樹は、一方に柳樹、一方には菩提樹であった。

下野の城主国時と、親鸞とは、大地へ下り、東西にわかれて、鍬をとった。

植えられる樹のうえに、もう無数の禽が舞って来て、浄土の歌を囀っていた――。

八

いつまでも、境内を去らない群衆は、鳴りひびく梵鐘のあいだに、念仏を和して、

「あの平次郎でさえ、お上人さまは、お救いくだされた」

「親鸞さまのようなお方こそ、生ける御仏さまというのであろう」

「ありがたい」

「これでわしらの精神の曼陀羅もできるというもの」

「安心して働こうぞ」

「楽しんで世を送ろうぞ」

「楽しみがのうてなんの人生ぞや、といつかも仰せなされた。ありのままの相をもって、念仏し、世をたのしめとも仰っしゃった」

「こんな歓ばしい日はない」

「吉い日じゃ」

「めでたい日よの」