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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

新大納言は、虚勢を張って、

「祝おうではないか」と、音頭をとった。やがて、酒杯がまわされると、

「亭主殿――、ご馳走をなされ」と、俊寛へ向って、浄憲法師がよびかけた。

「馳走とは?」

「猿楽なと」

「心得申した」俊寛は立って、おどけた手振りをしながら舞った。笙鼓を鳴らして、人々は歌う。

住吉四所のおん前には

顔よき女体ぞおわします

男は誰ぞとたずぬれば

松ヶ崎なるすき男

「ようできた、ようなされた。――次には、新大納言の君こそ、遊ばされい」

「そのこと、そのこと」手を引き出されて、

「さらば、舞い申す」と大納言は床を一つふんで、

この時、都に流行るもの――

「やんや、やんや」

流行るもの――

肩当、腰当、烏帽子とどめ

襟の立つ、片さび烏帽子

布打の下の袴

四幅の指貫

武者の好むもの

紺よ、紅

山吹、濃い蘇芳

茜、寄生樹の摺

よき弓、胡、馬鞍太刀

遊女の好むもの

雑芸、つづみ、小端舟

大笠かざして

艫取り女

「あっ!」酒の瓶子を踏んで大納言がよろめくと、人々は、歌の調子をそのままつづけて、

「たおれた! たおれた!」

「瓶子がわれた」

「瓶子がたおれた」

「わはははは」

「はははは」そして、めでたいと、はしゃいでいい合った。