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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

七

「不届きな奴だ、承知して怠ったのだと聞いては許されん、さっ、来いっ」

ずるずると、段の方へ、引き摺った。

七

「どこへ? ――」不敵な眼をしながら、朱王房は鐘楼の柱へ足を踏んばって動かなかった。

「阿闍梨の前へ連れて行くのだ。さ、来い」

「いやだ」

「卑怯者め、承知のうえで、礼鐘を撞かぬといったくせに。――お処罰をうけるのが怖いなら、なぜ撞かなかったか」

「ばか、ばかばかしくって……おれには、こんな鐘はつけないんだ……」と、朱王房は、唇をかんだ。

「貴様、それを本気でいうのか」

「いうとも。――今朝の一山の鐘の音は、虚偽だ、おべっかだ、仏陀は、笑っていなさるだろう」

「…………」呆れて、友の顔を、見ているのだった。朱王房は、昂奮した眼で、

「貴公は、そう思わないか」

「朱王房、貴様こそ、気はたしかなのか」

「たしかだから、おれは、この鐘を撞かんのだ。いいか、考えてもみろ、まだ十歳を出たばかりの範宴を、座主の依怙贔屓から、輿論と、非難を押しきって、今朝の大戒を、強行するのじゃないか。――それが仏陀の御心かっ。一山衆望かっ」

「執念ぶかい奴だ……。まだ貴様は、いつぞやの議論を、固持しているのか」