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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「ああ!」河童は、鴉みたいな返辞を投げて、一目散に、もとの道へ、駈けて行った。

砂金売りの吉次は、築地の外に立った。どこを眺めても、盲目のように門が閉まっている。雑草が、ほとんど、門の腰を埋めているのである。野良犬ならば、すぐ跳び越えられるように、崩れている所もある。蔓の絡んでいる椋の樹の上で、キチキチと、栗鼠が啼いた。

「変遷るなあ……世の中は」しみじみと、彼は、思う。

藤原氏の一門といえば、人間のなしうる豪華な生活図を地上に描き尽したものである。それが、武家同士の興亡となり、武家政治となり、今の平家の全盛になってからは「落魄れ藤家」と嘲けられて、面影もない存在になってしまった。狐狸でも住みそうな、この古館のしいんとしていることはどうだ。灯の気も見えぬし、犬すらもここにはいないとみえる。

とん、とん、とん……試みに、裏門とおぼしい所を、吉次は、そっと叩いてみた。そして、低声で、

「こん晩は――」何度か、訪れてみた。

「駄目だ」考えていたが、やがて、小石をひろって、侍部屋らしい屋根を目あてに、投げつけた。

蔀を上げる音がした。――間もなく、壺のうちで、灯りが揺らぐ、そして、木履の音が、カタ、カタ、と近づいてきた。