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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

そして、範宴へ、

「とんだことをいたしました」と謝った。

「ほかを探そう」範宴が歩みだすと、

「ちょっと、お待ち遊ばせ」と性善坊は、師の法衣の袂をつかんで、そのまま、道傍の井戸のそばへ連れて行った。

(何をするのか)と範宴はだまって彼のするとおりにさせていた。性善坊は、井戸のつる瓶を上げると、師の法衣の袂をつまんで、ざぶざぶと洗って、

「さ……これでよろしゅうございます。不浄な浮かれ女の手に、お袖をけがしたままではいけませんから」と水を絞って、それから自分の手も洗って、やっと、気がすんだような顔をした。

それからはもう遊女の手につかまらないように注意して二人は歩いたが、脂粉のにおいは、袂を水で洗っても消えないような気がするのだった。

のみならず六条の館は、どう探しても見つからなかった。

五

あきらめて、二人はまた、もとの五条口の方へ引っ返した。そして五条大橋を、こんどは東の方へと渡って行く姿に、もう黄昏れの霧が白く流れていた。

粟田口の青蓮院についたころは、すでにとっぷりと暮れた宵の闇だった。ここばかりは、兵燹の禍いもうけず、世俗の変遷にも塗られず、昔ながらに、寂としていたので二人は、