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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

おかしな女子だ」

「見るな、人に、泣き顔を見られるのは憂いものじゃ」

「参りましょう」二人は、そういって、歩みかけたが、やはり気にかかっていた。五、六歩ほど運んでから再び後ろを振り向いたが、その僅かな間に、女のすがたはもう見えなかった。

「や、や?」性善坊は、突然、笈を下ろして、女のいたあたりへ駈けて行った。そして、欄干から、のめり込むように川底をのぞき下ろして、「お師様っ、身投げですっ」と手を振った。範宴は、驚いた。そして自分の迂濶を悔いながら、

「どこへ」と側へ走った。性善坊は、暗い川面を指さして、

「あれ――、あそこに」といった。

水は異様な渦を描いていた。女の帯であろう。黒い波紋のなかに、浮いては、沈んで見える。

「あっ、あぶないっ……」性善坊が驚いたのは、それよりも、側にいた範宴が、橋の欄に足をかけて、一丈の余もあるそこから、跳び込もうとしているからであった。抱きとめて、

「滅相もないっ」と、叫んだ。

「――私が救います、お大事なお体に、もしものことがあったら」と、彼は手ばやく、法衣を解きかけた。すると、河原の方で、

「おウい……」と、男の声がした。

二、三人の影が呼び合って、駈けつけてきたのである。