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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

だった。女のいない山から下りてみると、世間は女の国に見える。女だらけに見える。わずらわしいことにも思い、何か急に明るい気もちもして、自分の年頃に、おぼろな不安と温かさを醸していた。

「お師さま、弱りました」さっきから、女をなだめすかしていた性善坊は、持てあましたようにいった。

「どうしても、家へ帰らないというのです」範宴が今度は、

「宇治かの、おもとの家は」と訊いた。

「いやです。帰るくらいなら、一人で帰る」

「そういわないで、私たちも、宇治の町へ行く者です。送ってあげよう」

「くどい坊さんだね」

「私たちの使命ですから、気に食わないでも、ゆるして下さい。私は、おもとを幸福にしてあげたいのだ」

「笑わすよ、この人は。人間を幸福にしてやるなんて、そんな器用なまねが、人間にできるものか」

「私の力ではできません。仏の御力で――」

「その仏が、私は大嫌いだよ。――死にたいというのに、邪魔をするし、嫌いだというものを押しつけるし、お前たちは、人を不幸にするのが上手だよ」

「とにかく、歩きましょう」

「嫌――」

「おもとの望みのようにして上げたらよかろう」

「わたしの望みは、わたしの男を自分のものにすることだ」