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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

五

「やさしい願いではありませんか」

「とんでもないことおいいでない、男には、ほかに、女ができているんだよ」

「その男とは、おもとの良人でしょう」

「まだ、ちゃんと、何はしないけれど……」

「ようございます。私どもが真ごころを尽して、男の方に申しましょう。わるいようにはしない……さ、歩いてください」やっと、宇治の町まで連れてきて、女の家をたずねると、

「そこ――」と、裏町の穢い板長屋の一軒を指さした。

御烏帽子作国助と古板に打ちつけてある。範宴が、板戸をたたいて、

「こん晩は」訪れると、その隙に、女は性善坊の手を振りいで、逃げようとした。

五

「はい、どなた?」若い男の返辞だった。すぐ家の中から板戸を開けて、そこに立っていた者が、二人の僧であったのに意外な顔をしたが、さらに、性善坊の手から逃げようともがいている女の姿を見ると、

「この阿女」と、裸足で飛び出してきて、女の黒髪をつかんだ。

「どこへ行っていやがったのだ。――おや、ずぶ濡れになって、また、馬鹿なまねをしやがったな」あまり無造作に家の中へ引き摺り上げてしまったので、範宴は、

「もしっ、そんな乱暴はせずに下さい」共に、家のうちへ入ったが、もうその時は、女のほうが、俄然、血相を烈しくして、