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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

と柿売りの男を、横から突く。

「てめえの家の餓鬼か。この悪戯のために、雨漏りがして、どうもならぬゆえ、懲らしめてくれたのが、何とした」

「雨が漏るのは、古家のせいじゃ、自分の子を、打て」

「打ったが、悪いか」と、またなぐる。子どもは泣き喚く。

「女と思うて、馬鹿にしくさるか」と、子どもの母親は、柿売りに、むしゃぶりついた。

親同士の喧嘩になって、見物は蠅のようにたかってくるし、駅路の馬はいななくし、犬は吠えたてる。性善坊は、探しあぐねて、

「お師様あ」と呼んでみたが、そこらの家の中に、休んでいる様子もない。

木津の渡船で、すこし、うるさいことがあったので、宿の辻で待ちあわしているようにと、自分は、一足後から駈けつけてきたのであったが――。

ここに見えないとすると、もう奈良も近いので、あるいは、先へ気ままに歩いて、奈良の口で待っているおつもりか?

「そうかも知れない」性善坊は、先の道へ、眼をあげながら、急ぎ足になった。

その足もとが、鶏に蹴つまずいた。埃をあげて、鶏が、けたたましく、往来を横に飛ぶ。

宿場を出ると、やがて、相楽の並木からふくろ坂にかかった。その埃の白い草むらに、