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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

案内せい」と、強迫する。

性善坊は、唇の隅に、哀れむような微笑をたたえた。

「寿童殿――いや弁海どの」

「なんじゃ」

「どうして、そのもとは、範宴様に、さような恨みをふくんでいるのか」

「今では、理由よりも、ただ生涯のうちに、あいつを、俺の足もとに跪ずかせてやれば、それでよい。それが、望みだ」

「ああ、お気の毒千万です。人を呪う者は、終生呪いの苦患から救われぬと申します」

「貴様も、いつの間にやら、坊主くさい文句を覚えたな。まあなんでもいい範宴のいる所へ、案内しろ」

「まず、断ります」

「なんだと」

「師の御房は、そのもとのような閑人と、争っている間はありません。一念ご修行の最中です。不肖ながら、私は、身をもって、邪魔者を防ぐ楯となる者です。用があるなら、私に、仰っしゃってください」

「生意気な」と弁海は、唾を横に吐いて、

「俺に、会わせんというのか」

「そうです」

「そんなに、弁海が怖いか。……いや怖かろう、あいつは、日野の学舎にいても、叡山にいても、師に取り入るのが巧く、長上に諂っては、出世したやつだ。俺に会うと、その偽面を剥がれるので嫌なのだろう、――しかし、俺は生涯に、きっと、範宴の小賢しい仮面を剥ぎ、あいつの上に出て、あいつを、大地に両手をつかせて見せると心に誓っている」