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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
武士となって、野望のつるぎを風雲に賭しても目的はとげられるのだ。けれど仏徒の大願というものは、そんな小我を目的とするものではないはずである。衆生の救船ともなり、人生を遍照する月ともならなければならない。飄々と、雲水にあそび、悠々と春日をたのしむ隠遁僧のような境界を自分はのぞんでいるのではなかった。この骨肉争闘の世をながめていても立ってもいられない心地がするのだ。身をもって、この悪濁の世にうめいている人々を両の手に、しっかとかかえ入れてやりたいという気持にすらなって、そのたくましい広大な自分をつくり上げたいがために、かく学び、かく苦しみ、かく悶えているのではないか。
その大願にもえている身にとっては、ひとりの野盗に対して怒る気も出ないかわりに、ひとりの弟をすら救えない自分を、範宴は、慟哭して嘆かずにいられなかった。
けれど、さらに深く考えてみると、弟はおろか、わが身というものさえ、まだ自分で解決もできていなければ、救えてもいないのである。
(なんで、人の身をや)と範宴は、痛切に今思うのだった。
自分をすら解決し得ない自分に、自分以外の人間の解決ができうるはずはない。