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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

しかし、いくら思念しても苦行しても、蒙のひらき得ない凡質が、生なか大智をもとめてのたうちまわっているのは、自分でもたまらない苦悶ですし、世間にも、無用の人間です。そういう意味で、死んでも、生きていても、同じだと思うのです」範宴の痛切なことばが切れると、聖覚法印は、うしろへ持ってきている食器を彼のまえに並べて、

「あたたかいうちに、粥でも一口おあがりなさい。それから話しましょう」

「七日のおちかいを立てて、参籠したのですから、ご好意は謝しますが、粥は頂戴いたしません」

「今夜で、その満七日ではありませんか。――もう夜半をすぎていますから、八日の暁です。冷めないうちに、召上がってください、そして、力をつけてから、あなたの必死なお気もちもうかがい、私も、話したいと思いますから……」そういわれて、範宴は、初めて、椀を押しいただいた。うすい温湯のような粥であったが、食物が、胃へながれこむと、全身はにわかに、火のようなほてりを覚えてきた。

叡山の静厳には、範宴も師事したことがあるので、その高足の聖覚法印とは、常に見知っていたし、また、山の大講堂などで智弁をふるう法印の才には、ひそかに、敬慕をもっていた。