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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
と、微笑しながら、兼実や、侍たちに、伴われてゆく。
漆と、箔と、砂子と、うんげん縁の畳と、すべてが、庶民階級の家には見馴れないものばかりで、焚きにおう名木のかおりが、豪奢に鼻をむせさせてくるし、飼い鶯の啼くねがどこかでしきりとする。
しかし、その十畳ほどなうんげん縁のたたみの間には、今はいって来た客と主のほか一人の人かげも見えないのである。ただ、扇だの、鼓だの、絃だの、胡弓だの、また笙のそばに濃むらさきの頭巾布れだの、仮面だのが、秩序なく取り落してあって、それらの在りどころに坐っていた人々は、風で持ってゆかれてしまったように消えうせていた。
「――なんじゃ、誰も見えんではないか」慈円がいぶかると、兼実は、
「はははは――。お身が参られたので、恥かしがって、みんなかくれたのじゃ」
「なにも、かくれいでもよいに」
「きょうは、姫の誕生日とあって、何がなして遊ぼうぞと、舎人の女房たちをかたろうて、管絃のまねごとしたり、猿楽などを道化ていたので、むずかしい僧門のお客と聞いて、あわてて皆失せたらしい」
「女房たちは、どうして、僧を嫌うかのう」
「いや、僧が女房たちを、忌むのでござろう。