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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
「慈円は、病で臥しております」といって、居室に、籠ってしまった。
前の関白兼実の実弟にあたる僧正として、この不快、不合理な問題に対して、それくらいな態度を示したのは当然であり、歌人の見識としても、はなはだもっともなことなのであるが、そのために、朝廷の心証はいっそう悪くなって、
「さらば、不問のまま、遠流の議を奏聞すべし」という声が高まってきた。
月輪兼実が、朝廟にあって、関白の実権をにぎっている時代なら、当然、こんなことは起らないのであるが、その月輪公は、両三年前に、すでに官をひいて、禅閤ととなえ、今では隠棲しているので、それに代って、朝に立った政閥と、それを繞る僧官とが結んで、弟の慈円僧正をも、青蓮院から追い出して、自党の僧で、その後にすわろうという謀らみなのでもあった。
「すてておいては、僧正の罪を大きくするばかりです。範宴御房、師の君に代って、貴僧が、御所へ参って、申し開きをして下さるわけにはゆきませんか」
七
事件は複雑だ、裏と表がある。問題となった和歌などはむしろ排撃派の表面の旗にしか過ぎない、僧正があってはとかく思うままに振舞えない僧門の一派や、月輪兼実が隠棲したこの機に、旧勢力を一掃して、完全に自分たちの門閥で朝廷の実権を占めようとする新任の関白藤原基通や鷹司右大臣などの意志がかなり微妙に作用し