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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

宴にとっては、今日の牡丹の一枝ほどうれしい贈り物はなかった。

しかし、それでもまだ禅閤は恩人に対しての誠意があらわしきれない気がするものと見えて、今日の書面では、ぜひ、青蓮院の僧正と共にいちど館へ遊びにきていただきたい、なにも、ご歓待はできないが、月輪の桜も今がさかり、月もこのごろは夜はわけても佳し、折から、めずらしい琵琶法師が難波から来て滞在しているから、平家の一曲をお耳に入れ、姫や自分からも、親しく、先ごろのお礼を申しのべたい、という懇切な招きなのであった。

範宴は、いずれ僧正と相談の上で――と返辞したが、心はむろん行くことに決めていた。

峰阿弥がたり

一

吉野の桜はもう散って吹雪になっていたが、月輪の里の八重桜は今が見ごろだった。

雪のように梢に積んだ厚ぼったい花は、黄昏と共に墨のように黒ずんでいたが、やがて宵月の影がその花の芯にしのび入るころになって、万朶の桜が、青銀色な光をもって、さわさわと乾いた音を風の中に揺り動かした。

「こよいの客人は、姫の生命の親じゃ、粗略がないように」と、月輪の館では、禅閤を初め、家族たちや召使の端までが、細かい気くばりをもって、門を清掃して、待っていた。