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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

鎌倉幕府というものの基礎や質のいかんにかかわらず人心はもう戦に倦み、ここらで本然の生活に回って静かな生活をしてみたいことのほうに一致していた。すでに国政の司権が武門の手に左右されてからは、それが平家でなければ源氏であるし、両者を不可としたところで姑息な院中政治がかえってそれを複雑にするぐらいなもので、どっちにしろ民衆の望みとは遠いものが形になるだけのことだった。民の心の底でほんとに渇くように望んでいる真の王道というような明るい陽ざしはここしばらく現れそうもないと賢者は見ている。覇道を倒して興るものはまた覇道政治だ。それならば何を好んでか全国土を人間の修羅土にして生きる心地もなく生きている要があろうか。そういう疑問が当然に疲れた人々の考えの中に芽ざしている。武士階級ほどことにそれがつよい。公卿はいつでもなるべくは現在のままで安易にありたいのだ。天皇の大民族といわれる大本の農民はほとんどそういう興亡からは無視されているので、これは幕府が鎌倉に興ろうがどうしようが今日の天気と明日の天気のように見ている――

建仁元年一月はめずらしい平和な正月だった。四民がみな王道楽土を謳歌しての泰平ではなくて、疲れと昏迷から来たところの無風状態――無力状態なのである。