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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

そして肉体を忘れる。在るのは生れながらの魂のみであった。人間とよばるるあわれにも迷いの多い一箇のものだけであった。

「南無、如意輪観世音菩薩」合掌をこらして、在るがままに在るうちに、我ともあらぬものが満身の毛穴から祈念のさけびをあげてくる。

「――仏子範宴、人と生れてここに二十九春秋、いたずらに国土の恩に狎れて長じ、今もって、迷悟を離れず悪濁の無明にあえぎ、幾たびか籠り幾たびか彷徨い、ひたすら行道のあゆみを念じやまぬ者にはござりまするが、愚かや、山を降りては世相の謎に当惑し、愚痴貪欲に心をいため、あまつさえ、仏陀の誡めたもう女人に対しては、忘れんとしても、夢寐の間も忘れ得ず、仏戒の力も、おのれの力も、それを制圧するに足らず、日々夜々の妄魔との戦いに、あわれ心身も蝕まれて滅びんとしている愚か者がこの範宴であります。一度は、死なんといたしましたが、死に赴くも難く、生を願うては煩悩の濁海にもてあそばれているのみ。あわれ、救世菩薩、わが行く道はいずくに在るか。示したまえ! 出離生死の大事を! これ、一人の範宴にとどまる悩みではありません。同生の大衆のために、われら人間の子のために」