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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

二

それとも、異論あらば、論議するか。人のうわさも七十五日と、隠れていても、事は済まぬぞ」

二

ぞんぶんな悪態をついて、

「馬鹿門跡っ」

「欺瞞者」そして天狗のように、

「わはははは」そこらへ、唾を吐きちらして、帰ってゆくのだった。

やっと一群れ帰ったと思うと、また、次の一群れが来る。

同じように罵詈か、強請か、論議売りであった。

夜になると、聖光院の大屋根へ、ばらばらと石が降った、塀の外を大声で、

夜ごと夜ごとの

恋猫は

人目の築地越えて

煩悩の辻こえて

月輪へ

しのぶとよ

朝な朝なの

恋猫は

諸人の鞭に追われ

御仏の裳にかがまり

昼もなお

しのぶとよ

破れ扇で手拍子を打ちつつ、聞えよがしに歌って通る者があったりする。

朝、門を開ける者は、必ずそこら一面に落ちている瓦だの、牛の草鞋などを見た。ある朝は、大きな墓石が投げこまれてあったりした。

――仏誅必ず汝に下らん。

などと書いた投げ文は毎日のことである。しかし範宴その人の生活は、ここへ移ってからも依然として変らない、思索の寂室に、いつもひっそりと住んでいるのだった。

青蓮院の慈円僧正と、そのほかへ四、五度の消息をつかわしたり、慈円からも幾回となく書状の来た形跡はあるが、外へは、一歩も出なかった。