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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

といった。心寂は、

(ここぞ、わが菩提林)と、鳥の音に心を澄まし、三昧に入っていたが、やがて、三年四年となるうちに、同門の人々はどうしたろうかとか、上人はご無事でおられるだろうかと、やたらに人間のことばかり考えられてきて、朝夕長者の住居から食べ物を運んでくれる小さい子供にまで話しかけてみたくなったり、雨ふるにつけ、風ふくにつけ、心は、かえって、世間にばかり囚われてしまって、まったく最初考えてきたような雑念なき俗縁なき清澄な菩提は求められなくなってしまった。

あわてて四年目に草鞋をはいてふたたび都の上人のもとへ帰ってきて、面目なげにその由をいうと、上人は、

(よい旅をなされた。学問があっても、智者でも、道心のない者には、その迷いは起らない。菩提へ一足近づかれたのじゃから)

叱られるかと思いのほか、上人は随喜されたというのである。

「いや、そんな昔ばなしをなされては、面目ない」と、心寂は、友の話をうち消して笑った。

三

「念阿どの」と、こんどは心寂から攻めた。

「他人のことばかり仰せられずに、ちと、あなたのことも、話していただきたいものじゃが」

「いや、わしにはなんの話もない。