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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

三

「玉日を……妻に……。……妻にとか?」

「はいっ」

「…………」慈円は大きく唇をむすんで天井を仰いでいるのであった。いつまでも、そうして、ふさいだままの眼であった。ポロ、ポロ……と綽空の顔の下では涙のこぼれる音がする。

やがて、慈円が、

「どういう決心で」重圧を加えるような低声でこう問うと、弦のごとく緊張つめていた綽空は言下に、

「この一身に、念仏門の実相を具現いたすために。――また、この身をも、念仏門の実光に救われたいがためにです」と、全身すべて信念の塊りのように構えて、そう答えた。

三

それなり慈円座主も綽空もじっと黙って坐っていた。ふたつの巌がそこへ生えているように。

――これは死を決して来たな。と、慈円は感じた。すくなくもそれくらいな覚悟がなければ今のことばは吐けないはずである。

――傷ましい。とも思い遣るのだった。きょうまでの経緯を何もかも慈円は知っている。そして、誰よりも案じている。誰よりも綽空の大成を祈っている。

――しかし。彼が今、突然にいい出した希望は、あまりに問題が大きすぎる。綽空のあらゆる苦悶と仏法に対する内燃がここ数年前からその問題にあることは慈円もよく知っていたし、芽生えのころから彼を見ている師としての理解も充分持っているつもりであるが、さて、こう現実にその解決を迫られても、所詮、僧として