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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

十三

上人は、静かに、僧房の者をかえりみていった。

「心寂や、蓮生など、これに見えぬ者も皆呼んで参るように。そして一同、ここへ集まってもらいたいが」

「はい」奥房にいた長老たちも、やがて、何事かとそれへ出てきた。すでに四、五十人のいあわす弟子僧がほとんどそこにずらりと並んでいるのだ。そして綽空一人が、一同の環視の中に平伏している。どうしても凡ごとでない容子なのである。

人々は、固唾をのんで、しいんとしていた、一同が揃ったと見ると、法然は、おもむろに、こういった。

「綽空――。ここにおられる月輪殿が、この法然を介して、おん身に、ひとりの妻を娶わせたいと、今日、これへ見えられての仰せじゃ。……どうじゃの、妻をめとる心があるか、ないか?」

じっと、居並んでいた弟子僧たちの顔いろが、無言の裡に、明らかに動揺しだした。あまりにも意外な師の言葉として、自分の耳を疑っているような顔もあるし、また、法然と月輸殿の心理を不審かって、二人の顔を横から額ごしに凝視している者もある。

「…………」綽空はと見ると、彼は、血液のある石みたいに、五体を硬くし、耳は真っ紅にそめて、依然として、大勢の凝視を浴びたまま、手をつかえているだけだった。