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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

また、叡山を去って、吉水の念仏門に身を投じ、自力難行から他力易行へ転向して、その折も、ごうごうと世上の輿論に渦まかれた人でもある。

以前には、綽空といい、結婚して後、善信と名を改めたという風評も田舎で耳にしたことがある。

「もしや……かの綽空なら」心蓮は、急に、自分もじっとしていられない気持になり、そして胸噪ぎに駆らるるまま、どこというあてもなく、叡福寺の人々と共に探し歩いた。

「そうだ」彼は、山門を出て、街道のほうへ走ってみた。さっき、山伏はこの道の方へ刃をさげて走ったのだ。――綽空が難を避けて行ったとすれば、この道にちがいない。

だがもうその山伏の影も見えないし、黒犬の声も聞えなかった。心蓮は、霜をふくむ風の中に、ただうろうろと立ち迷っていた。

寺へもどっても、この騒ぎに――また、自分と同じ師を持つ同門の者の不安をよそに、楽々と、眠るわけにはゆかない気がする。心蓮は、背中を風に押されながら、風の行く方へただ歩みつづけた。

すると、どこからともなく、誦経の声が聞えた。耳のせいかとも思ったが、そうでもない。

「? ……」風に顔を反向けて振向いた。

水車小屋がある。