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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
益のないことだ。われらは、熟慮しなければならない秋にぶつかっているのじゃ」
「わかりきっている」
「――売僧法然ひとりに対して、叡山三塔の者が、かくものものしく騒いだとあっては、大人げない。叡山は、吉水の一団に対して、私憤をもって起ったのではない、社会の清浄化、社会を毒す悪僧どもを敵として起つのでなければならん。社会のために、戦うのでなければいかん」
「もっとももっとも」
「肉食はする、酒はのむ、あまつさえ弟子善信には、妻帯の媒立ちまでしたという売僧法然、口賢く、女人教化などと申しおるが、その実いかがやら、まさしく仏教の賊、末法の悪魔」
「いかんぞするっ、その法賊を!」一人がさけぶと、大衆は波のように揺るぎだして、
「売教徒の僧団を叩きつぶせ!」
「吉水を焼き払え」と、怒号を揚げた。
三
ことばの上の論議や、憤りをやるだけでは、もう大衆は納まらない心理になっていた。
「やれやれッ」と、誰かいいだす。
「黒谷へ襲せて行け」
「吉水を葬れ」
「売教徒の巣を焼き払え」大講堂の縁には、さらに二人立ち、三人立ち、七、八名の煽動者がおどり上がって、激越な口吻で、
「念仏退治へ」と、指さした。