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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

四

「神酒を持ってきてください。それから、薬、布――」彼女は、そういうと、もう事情とか、この草庵の立場とか、そんな前後のことなど考えていられなかった。覚明は、ためらって、

「さ、酒はあるか」と性善坊へ計っている。

「あろうも知れぬが……」

「いそいで下さい」玉日に急かれて、

「はい」と納屋へ駈けて行った。

やがて、それらの品が来ると、彼女は、性善坊や覚明さえ手の下しかねるほどな不気味な傷口を洗ってやった、足や腕や、数ヵ所の繃帯をも、懇ろに巻いて与えた。

そして、夜具を運ばせ、

「薬湯を煎じてやったがよい。朝になったら、粥なりと与えて」

と、細々、手当をいいつけて出て行った。

やや人心地のついた実性は、それが、裏方の君であったと後で聞かされて、

「勿体ない」と、わら蒲団のうちで、合掌していた。

気が落着くと、彼は一時、そこの輦小舎のうちでスヤスヤ眠ったらしいが、夜が明けてから覚明が粥を持って行ってやると、充血した眼をにぶく開いて、

「粥? ……粥ですか……いりません、食べられません」顔を振っていい張るのである、それでも無理に食べさせようとすると、彼は、大熱のあるらしい乾いた唇からさけんだ。