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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

嫉妬――ひがみ――情痴――さまざまなものを持った世間なみの妻でしかあり得ないのである。

「どうして、人間というものは、こういう悩み争いに、この楽しめる世を楽しまずに、血みどろに暮さねばならないのか」そんなことを考えながら、流れに濯いだ衣をしぼっていると、その向う側の道を誰か歩いてくるらしい跫音なのである。

「女」そう呼ばれて、彼女は初めて、顔を上げた。

明らかに、それは叡山の法師たちに違いないのである、特徴のある法衣の裾を短かに着、手に薙刀をかかえている、二人づれで、川の向う側に突っ立っているのだ。

「なんぞ、御用事か」玉日が答えると、二人の法師は、彼女のそういった言葉や身ごなしに、ただならぬ気品を感じたものであろう、ちょっと、口をつぐんで、じっとこっちを見直している。

「…………」二人はなにか囁いていた。

おそらく、玉日の面ざしから、広い京都にも稀れな美を射られて、惑ったり、考え直したりしているものと見える、ぶしつけに、いきなり「女」と呼んだことを狼狽しているふうにも取れる。

しばらくして、法師の一方が、

「あいや」といい直した。

「失礼でござるが、おんもとには、九条家から善信御房へ嫁がれた玉日姫でおわすか」