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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

自分ではいつまでも、

(まだいかん、まだ脱けきらん)と、しきりに常々いっているが、この居眠り顔は、いかにも生ける羅漢であった、菩提の光がうしろに映しているかのようだった。

ばたばたと跫音がしたので彼は眼をあけた、渋そうにその眼を横に向け、なんとはなく驚いて立ち上がったのである。

「覚明さん、はやく来てください」誰か呼ぶ――そして跫音はまた、小屋の蔭へあわただしく消えてゆく。

「なんじゃ」覚明は、駈けて行った。

すぐその眼に映ったのは、草庵の裏にある川べりで、二人の大法師が、薙刀をかかえ込み、裏方の玉日を取り巻いて、なにか穏やかならぬ暴言を吐いている様子。

覚明の大きな体が、あんなにも軽捷なるかと思われるほど、その行動は迅かった。

「――あ痛っ」法師の一人は、撲られた横顔をかかえ、よろめきつつ、

「何をするかっ」いうまに、覚明の手は、もう一人の襟がみへ伸び、

「こうする」ひき寄せて、腰帯をつかむと共に、ぶんと振廻して大地へたたきつけた。

輦を焼く

一

三月初旬の朝である。

京都六角堂の精舎から、かがやかしい顔いろを持って、春かぜの吹く巷へ出てきた旅の沙門がある。