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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

太子廟は、聖徳太子が、かつて自分の惨憺たる迷いと苦悩のある時代に、

――汝の命根まさに十余歳。という夢中の告示をうけた青春の遺跡であった。

あの時、あの転機がなかったなら、きょうの自分はないものであった。どうして、今のこの輝かしい生命があろう。

また、京都の六角堂は、そこの精舎へ、叡山から百夜のあいだ、求道に燃え、死ぬか生きるかの悲壮なちかいを立てて通った床である。

ここにも、如意輪観世音の有縁の恩が浅くない、さまざまな思い出が多い――

そうした半生の闇から彼は今ぬけ出した心地である。

聖道門から易行門へ。そして、恋は成って玉日との結婚へ。

「ああ」善信は、思わず胸がふくらむ。――自分ほど今、祝福されている人間があるだろうか。

だが――ひとみを拭って、都の巷を見てゆくと、なんと、ここには皆、暗い顔や、迷いのある影や、屈託の多い俯向き顔や、せかせかと物に追われているすがたや――およそ貧相な人間ばかりが多いことだろう。

物に富んでいても、心の貧しい――いわゆる貧相な人々のことである。善信は、自分の幸福をかえりみて、

「そうだ、自分の満足だけに酔ってはいられない。