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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

六

(そうだ、人の来ぬ間に!)七郎は、跳びかかった。

無想になって合掌している童子の肩ごしに、むずと手をのばした。一体の像を左の小脇にかかえた。そして、もう一体の弥陀如来をつかみかけると、童子は、びっくりしたように起って、

「あれっ? ――」愛らしい叫びをあげた。そして幼子らしく、手ばなしで、わあっと、泣くのであった。

二つの像をかかえて、もう一体の像を七郎が蹴とばしたせつなである。

「おのれッ、この下司!」ぐわんと、彼の耳たぶを、烈しい掌のひらが革のように唸って打った。

「あっ――」耳を抑えながら、七郎は、横にもんどり打った。仏陀の像は、また一つ彼の手から離れ、粉々になって、元の土にかえった。

六

「大人げない奴めっ」叱咤が、頭のうえで聞えた。

七郎は、起き上がって、自分を撲った相手を見た。

十九か、二十歳か、せいぜいそんな年頃の若党である。腕を捲って、右の肩をすこし昂げ、左の手に、泣いている髫がみの童子を抱きよせていた。

「何処の青侍か知らぬが、よい年をして、なんで、稚い和子様のお作りなされた弥陀の像を足蹴にして砕いたのじゃ。それへ、両手をついて、謝れっ」こう正面を切って罵られると、庄司七郎も陪臣でこそあれ時めく平家の郎党である。