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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「あれは鹿だよ、それ、いつかこの峰で、捕まえた白毛の鹿が、廻廊へあがって、何かいたずらしておるのじゃ」

「そうかしら」しかし、またしばらくすると、こんどは二人のいる庵室のすぐ外に跫音がして、そこを叩く者があった。

「もしもし……」初めて、二人は、

「や? どなたじゃ」

「ここをお開けくださいまし。お願いがあって来た者でござりまする」女性の声なので、いよいよ怪しみながら、

「どちらから?」ためらって、こう訊くと、

「お目にかかってからお話しいたしまする。私たちは、御所のうちから来た者でございますが」

「え。――御所から?」住蓮は、あわてて、そこの戸を開けた。

三

二尺ほど開けた戸の隙から、霰を持って山風がふきこんで、庵室のうちは、炉の赤い炎に、大きく明滅を描いた。

「あっ? ……」鮮やかに二つの白い顔が見えた。あまりにも、この冬の夜や、世を離れた庵室に、ふさわしくない女性たちである。

(閉めようか)住蓮は、ふと、一瞬にそう惑った。――何か怖ろしい悪魔でも見うけたように慄きが背を走った。

「どなたじゃ? ……あなたがたは」そういう声までが、われ知らず、尖っていた。

「おわすれでございましたか――」