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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

七

めっきり体が弱くなって、法然上人が人々へ顔を見せることができない日でも、

(オオ、善信様が)と、彼のすがたを仰ぐと、聴衆はそれだけでも満足するのだった。随喜して、もう口のうちの念仏に素直な心を示すのだった。

その善信が、かなり長い時間にわたって、庭面の暮れるのもわすれて、自己の信念を説き聞かせていると、人々は、いつか、涙をながして、

(おれは間違っていた)

(生き直ろう)

(もっとよく生きよう)懺悔の気持をいっぱいに持って、耳にも口にも眼にも、念仏の光のほか何ものもなく聞き入っているさまであった。

四郎は、腮へ手をやって、

「笑わせやがる」と、肚のそこで嘲んだ。

「――裏と表が見えねえから坊主は有難がられるのかと思っていたら、善信などは、坊主のくせに、女房を持ち、岡崎の庵室で、あの玉日というきれいな女と、破戒の生活を大びらにやっているのに、それでもまだ、愚民どもは、有難がっていやがる。度し難い奴らだ」

彼は、むかむかしてきて、そこに坐っていられない気がした。ひとつ、ここから起ち上がって、

(みんな! 眼をさませ)と、呶鳴ってやろうか。そして善信が、いかに、破戒の堕落僧であるかを、おれが一席弁じ立ててやろうか。