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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

院へは、法皇のまわりに、平家の人々がたくさん取り巻いて、閥外の人間を遠ざけるから、範綱などは、めったに伺候することはなかったのであるが、近ごろはまた、法皇のお心もちが少し変って、あまりな平家閥に、眉をひそめられることが多く、ときどき、範綱にもお招きがある。むろん政治上の事にかかわる範綱ではないから、和歌のお相手や、稀に、御宴の端につらなるくらいの程度であった。

「いつも、お帰りは、遅うございますか」介が、当惑そうに訊くと、館の者が、

「お出ましの時は、たいがい遅くなるのが常でございます」と答えた。

「それは困った」介は、院の御所へ行って、衛士に取次ぎを頼んでみようと思った。で、そこを辞して、また駈けだして行くと、途中で、範綱に会った。

「介ではないか」呼びとめられて、

「おおよい所でした、六条様、たいへんです。有範様の御容体がにわかにわるうござりまして、医師薬師も、むずかしいという仰せ。奥のおん方様も、宗業様も、お枕べに、付ききりです。すぐ、お越しくださいませ」

「や……有範が」そんな予感があったように、範綱は、すぐに、牛輦を引っ返して、日野の里へいそがせた。