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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

十二

ややしばらく唸いているばかりであったが、

「おいっ」いきなり四郎の肩へ手をかけ、揺すぶるようにしていった。

「ど、どうしたんだ一体、その姿は。――毎日、どれほどここでおれは待っていたか知れないぞ。してまた、頼んだことは、突きとめたか」四郎は、にやりと笑って、

「弁円……」

「なんだ」

「おれはもう、神通力を失ってしまった。その代りに、この通り、仏果の功力というものを授かった」

「待てオイ。――貴様はいったい正気か」

「正気だ」

「そんな姿に変ったのは、あの事件の秘密を探るために、吉水禅房の奴らをあざむくための手段にやったのではないのか」

「たれが、嘘や手段に、頭を剃るか。――わしはついきのう、上人のおゆるしを賜わって、岡崎の善信どのの手で得度していただいたのだ」

「得度を」

「おれは初めて、明るいこの世を見た。うれしくて、欣しくて、堪らないのだ。このさわやかな心持を誰に話そう? ……。考えてみると、おれの母も父も、おれを生れぞこないの悪鬼だとばかり嘆いていた。その両親もどうしているやら。……ああ誰かにこの欣びを告げたいがと――そこで貴様のことを思い出してやって来たのだ」