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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「――えっ、そんなことで、この弁円を思い出したのか。じゃ松虫鈴虫の行方を突きとめてくれと頼んだことは」

「もうよせ」

「な、なんだと」

「つまらぬ邪念に躍起となって、おのれも苦しみ、人も苦しめてどうするか」

「待て、ば、ばかっ。――おれは貴様から意見を聞こうなどと思わぬ」

「悪いことはいわぬから、人を呪詛することはやめにしろ。善いことはしなくとも、それだけでもよほど自分が楽になるから」

「さては、てめえは吉水へ忍び込んで行って、あべこべに吉水禅房の法然や善信に騙かられたな」

「勿体ない、おれを生れ甦らせてくれた師に対して、悪口をたたくと承知せぬぞ」

「何をいうかっ」弁円は杖をふりあげて、四郎の横顔へ、ぴゅっとそれを揮り下ろした。

十三

四郎は、身をひねって、弁円の打ち込んできた杖を小脇へ抱きこんだ。

「何をするッ、弁円」

「知れたことだ。よくも約束を裏切ったな。貴様は、念仏門の魔術にかかったのだ。察するところ、吉水の法然や善信に、こっちの策略を喋舌ったであろうが」

「元より、何も――かも懺悔した。して悪いか」

「うぬっ、見損なった。もう、生かしてはおけん!」

「うろたえるな、髪は剃り落しても、まだ、天城四郎の腕の力は抜けていねえぞ」