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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

「……え。……ですが、私たちは、このお山に、死んでもいたい気がするのです」鈴虫は、そういった。住蓮は、いつとはなく、彼女の手を引いてやっていた。安楽房は、急な坂にかかると、松虫の局を背に負って這い登った。

――捨てられない。若い住蓮は心のうちでそう思った。おそらく安楽房も同じであろう。どうして、この無力な、そして自分たちを、かくまで信じきっている女性を、このまま振り捨てられよう。

あたりの樹々は、露が凍って、白珠をつらねたように氷が咲いていた。大地は、針の山に似ている冱寒の深夜だった。けれど、四人の若人の息は、血は、さながら火と火のように熱かった。

やがて、二十町も登ると、

「やっと来ました。ここです……」と、住蓮は、戸の閉まっている一軒の小さな空家を指さした。どこかで、滝が鳴っていた。

三

めったに開けたこともないような一軒家である。廂や戸は朽ちているし、床に敷いてある物も黴のにおいで蒸れていた。ある堂守が住んでいた後に、住蓮と安楽房がしばらくここに生活していたことがあるので、貧しい炊ぎの道具や灯りをともす器具などはあった。

「ここならば、しばらくの間は、世間の眼にもふれずにおられよう」