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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
「ここだな」仙洞御所の前に立って、弁円は杖をとめた。御門垣から少し離れた所には、例の松虫、鈴虫の詮議に関する厳達が高く掲示されてあり、その板も、もう雨露に墨がながれていた。
「おねがい仕る」衛府の門を入って、弁円は高らかにいった。
「おそれながら、松虫の局と鈴虫の局のありかを、まさしく見届けて参った者でござる。御上申のほど願わしゅう存ずる」
「なに」と、衛府のうちでは色めき立って、すぐ、彼は評定所のほうへ廻された。
問注所の役人がいならぶ。
弁円は、雄弁に、自身で探りあててきた次第を述べたてた――勿論、鹿ヶ谷の安楽房と住蓮のことは、極力それを誇張して。
「よしっ」いちいち書きとめて、
「確と相違ないな」
「神仏につかえる身、何として」
「拇印を」と、彼の証を取って、
「追ってお沙汰があろう」と帰した。
弁円は、問注所から衛府を通って、御門の外へ出た。門の外には、叡山の法師たちが、頭巾の裡から眼をひからして待っていた。
二
「弁円どの。どうだった」法師たちの影は、彼を囲んだ。
弁円は、小声で、
「上々の首尾さ。――確と、中堂の執事と、叡山の大衆へ、この由、触れておいてくれ」