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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

氷雪篇

花紛々

一

吉水の禅房を中心として、洛内の信徒の家屋敷は、おのおの、暴風雨の中のような様であった。

突然、荒々しい武者どもが来て、

「調べる」と、たった一言の下に、家財を掻き回して、家宅捜索をする、そして、わずかばかりな一片の手紙でも、不審と見れば、

「こやつ、念仏門の亡者と、深い企みがあったな」

有無をいわせないのだ。食事中の主を引っ張って行ったり、乳のみ児の泣く母親の手を曳いて行ったり、それはもう地獄の図にひとしいありさまだった。

わけても、今度の事変で、法然上人以上に、一身を危機に曝された者は、岡崎の善信であった。

叡山からは特に、と、かねてから注目の的になっていた善信である、念仏門の大提唱は、法然によって興ったとはいえ、その法然の大精神と信念とを体して、自己の永いあいだの研鑽をあわせて、強固不抜ないわゆる一宗のかたちを完からしめてきたのは、より以上、善信その人の力であると、今では人も沙汰するところである。

「彼こそ、この際、断じて死刑に処されなければいかん」とは、彼の大を知る反対側の他宗において、勃然と揚っている気勢であった。

で――法然門下中の逸足としてこんどの処刑のうちには、真っ先にその名が書き上げられてあった。