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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

と、絶叫する若者だの、

「これを上人様に――」と、真心こめた餅や、紙や、花などの供物を捧げる老媼だの、

「せめて、お足の痕の土を」と、輿の通った後の砂を紙にすくっている女だの、名状し難い哀別のかなしい絵巻が、到るところで描き出された。

「――さらば」と、大地に坐って伏し拝む人々とまじって、月輪の老公は、大宮口まで従いてきて、その輿を見送り、すぐ牛車を返して、岡崎のほうへ急いだ。

――もう一刻後の卯の下刻には、上人を見送ってまだ乾く間のない涙の目で、さらに、わが息女聟の善信を、こんどは、北の雪国へ向って送らなければならなかった。

日野善信

一

花明りであろう、ほのかに廂の外は白い。音もなく、まだ人声もなく、ただ微かにうごく花の香のうちに、暁は近づいている。

「……吉水の上人には、はや今ごろは」善信は、持仏堂を出て、縁に立った。未明の空を仰ぎながら、ふとつぶやいて、憮然となった。

「…………」遠心的に、彼のひとみは、今朝、都を離れてゆく上人の前途をそこから見送った。――と共に、自分もこれから間もなく、この岡崎の草庵から、雪の越路へ立って行かなければならない身であることを思う。