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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

と、次室から知らせた。

二

そこへ通ってきた老公の顔も、決して暗くなかった。

「おお」

「おう」見あわせる顔ごとに、言外の感慨が、いっぱいに胸へせまってくる。善信は、あらためて、

「なんのご孝養もせず、今日まで、お舅君には、わずらいのみおかけ申し、その儀ばかりは、玉日とも、申し暮しておりました。その上、かような御命を下されて、越路へ旅立つからには、ふたたび善信が、生命のあるうちに、朝夕の御見も望み得ぬことかと思われます。なにとぞ、老後をいとい遊ばされて、善信がことは、心ひろく、なるがままに、世の波へおまかせ置き下さりますように。――また、玉日が身と、房丸が身とは、かように勅勘を蒙って流さるる私が、配所へ連れ参ることもかないませぬよって、何ぶんともに、ご不愍をおかけ賜わりませ」

月輪の老公は、黙然と、何度もうなずいて、聞くのであったが、

「玉日や、房丸が身は、わしが手にひきとって、守ろうほどに、必ず、お案じなさらぬがよい」といった。善信は、にっこと笑って、

「それをうかがって、私も、なんの心がかりもありませぬ」

「ただ、おん身こそ、気候風土の変る越路へ下られて、身を害ねぬように」