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しんらん
親鸞
吉川 英治
「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页
四
――三十年の懊悩をみぐるしゅう経てきたわしと、ついきのう念仏に帰依した生信房と――較べてみよ、どれほどの差があろうぞ。……わしはむしろ彼に教えられている。
わしも本体の愚のすがたに帰ろうと思うのじゃ。そして、いっそう真の念仏を――凡夫直入の手びきしようと存ずる。――名も今日よりは、愚禿とかえる。昨夜ふと真如の月を仰ぎながら、親鸞という名もよいと思うたゆえ、その二つをあわせ、愚禿親鸞とあらためた。――愚禿親鸞、なんとふさわしかろうが」
「はい……」生信房もふかい内省にひき込まれていた。それ以上答えができなかった。善信はその日から、自分を愚禿とよび、名を親鸞と改めた。一同へも、告げた。
冬になる。やがて――春がくる。伸びた黒髪に、網代の笠をかぶって、親鸞はよく町へ出て行く。着のみ着のままの破れ法衣――見るからに配所の人らしくいぶせかった。だが、彼の頬には、いつも誰に対しても、人なつこい親しみぶかい、愚禿の微笑みがかがやいていた。
国府を中心にして、新川や頸城あたりから、ある時は、赤石、小田の浜の地方まで、親鸞は、ひょうひょうと布教にあるいた。
彼のすがたが、道の彼方から来るのを見かけると、