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しんらん

親鸞

吉川 英治

「名古屋新聞」1934(昭和9)年9月28日~1935(昭和10)年8月9日、1936(昭和11)年1月19日~8月<br>「台湾日日新報 夕刊」1934(昭和9)年9月30日~1935(昭和10)年8月12日、1936(昭和11)年1月7日~8月4日<br>「京城日報」1934(昭和9)年9月~1935(昭和10)年8月、1936(昭和11)年1月10日~8月<br>「神戸新聞」1936(昭和11)年1月5日~8月6日<br>「福日新聞」「北海タイムス」1935(昭和10)年9月~1936(昭和11)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 566,138 字 · 1127 页

青空文庫

そういう法皇を奉じて、まだまだ、衰兆の見えない平家を廟堂から追い落そうなどとしても、所詮、躍るもの自身の自滅以外、何らの運動となるわけのものではない。まして、それが私怨と私慾の不平から結ばれた策動であるにおいては、言語に絶した不忠な悪謀みである。法皇の御運命がそういう野望家のために決しられるようなことでもあっては断じてならない。

範綱の意志は、そこに決まっていた。――だが、それを極言するまでもなく、法皇御自身が、院の内外にうずいている野心家の空気と、野心家の性格とを、ことごとく知り抜かれているようなので、

(このぶんなら――)と、彼は、自分の取越し苦労を、むしろ恥じて、

(くれぐれも、御自重)と、ばかり奏して、あとは、いつもの和歌の話などして、心までが、はればれとしていた。

南苑の橘には、春のよごれを降りながした雨あがりの陽が強く照りかえしていた。伶人たちが、院の楽寮で、器楽をしらべているし、舎人たちは、厩舎の前にかたまって、白馬に水を飼っていた。

「六条どの」後ろで呼ぶ者がある。廻廊の曲がり角に、待っていたように佇んでいた男だった。

「――おおこれは」